くまの足跡
世界でいちばん冷めたサポーター②
Doha, Qatar カタールのスタジアムには、信じられない光景が広がっていた。筆者がそこで見たものとは――。

前回から時間が経ってしまいました。こちらが前回の記事です。 https://fcroji.com/diary/doha01
中東の金満産油国カタールのスターズリーグには、熱狂とはほど遠い光景が広がっていた。ドーハの強豪アルガラファの22,000人を収容するサーニー・ビン・ジャーシム・スタジアム、その青と黄色で彩られたスタンドは空席だらけで、閑古鳥が鳴いていた。

お客さんはいるにはいますが……。

メインやゴール裏はスッカスカ。
アラブ人独特の白装束を着たカタール人がポツンポツンと座っているが、せいぜい500人くらいだろう。案内役を買って出てくれた地元の若者、ムハンマドくんによると「いつもこんなもん」なのだとか。お客さんたちは歌うわけでも、飛び跳ねるわけでもなく、ただ席に座って友人や家族と談笑している。ブラジルやアルゼンチンの人々だったら、「練習か?」と勘違いするだろう。私も最初はそう思った。
だが、バックスタンドの一角は違った。そのブロックだけ、びっちりとファンで埋まっていたからだ。しかも、その集団は揃いも揃って青と黄色のサテンのはっぴを着ている。青と黄色はアルガラファのチームカラー。その装いは応援団というより、アイドルの親衛隊に近い。
目を惹いたのは、けったいな応援衣装だけではない。その応援の様子は、世界中のどこにもないものだった。サテン軍団は立ち上がって飛び跳ねたり、敵に罵声を浴びせたりしない。席に座ったまま、大人しくパチパチと手を叩いている。

サテンのはっぴを着た人々。はっぴには黄色と青の2種類があった。
この集団はなんなんだ……。
興味をそそられた私は近くに席を移し、試合そっちのけでサテン軍団を観察することにした。すると、その身体的特徴がわかってきた。浅黒い肌に落ちくぼんだ目、細いあご、そして並びの悪い歯……。揃いも揃って痩せこけているのだ。
奇妙な応援団の正体とは?
「これはどういうことなの?」ムハンマドくんに尋ねると、思いもよらない答えが返ってきた。「出稼ぎ労働者たちが、少しのお金で応援に駆り出されているんです。たぶんソマリアあたりから来たんでしょう」なるほど、熱気やノリがないのも当然である。
このサテン軍団の周りには「応援指導部」のような男たちがいて、険しい目つきで応援ぶりをソマリア人を監督していた。ムハンマドの説明によると、こちらはイラン人、もしくはイエメン人らしい。

こちらが応援指導部の皆さん。
応援指導部は情け容赦なかった。「立ち上がれ!」と怒鳴ると、遅れてふらふらと立ち上がったソマリア人に蹴りを入れたり、胸ぐらをつかんで「ちゃんと歌え!」などと怒鳴りつけている。
恐ろしい世界があるもんだと思い、私はいそいそと写真を撮りに行く。すると1枚撮った直後、視界が遮られた。「NO, PHOTO!」鷲鼻のイエメン人らしき男がカメラをつかんで凄んできたのだ。私は震え上がった。自分もまた、ソマリア人の哀れな応援団のようにぶん殴られてしまうのだろうか。(つづく)