くまの足跡

Travel Diary
Jul.11.2016

ユーロ戦記「ポルトガルに捧げる100本のバラ」

フランス代表が決勝で敗れ去り、パリは沈黙。だが、その片隅ではポルトガル移民たちの祝宴が繰り広げられていた――。

7月10日の夕方、花売りのジャックは、100本のバラを抱えて街に出た。

今日は売れる。なにせEUROの決勝だ。試合がはじまる5時間も前から街のいたるところでラ・マルセイエーズの大合唱。パリッ子たちは、勝つ気まんまんだ。グリーズマンが、ポグバが、ジルーが、ゴールを決めるたびにバラは大いに売れるだろう。

だが、試合は思った以上に硬直し、ひとびとは眉間にシワを寄せて溜め息をつき、バラはまったく売れない。

花売りのジャックに商機が訪れたとき、すでに23時をまわっていた。延長後半、ついに均衡やぶれ、ポルトガルのシュートがネットに突き刺さる。ジャックはシャンゼリゼ大通りでもリパブリック広場でもなく、17区の片隅にある小さな溜まり場に急行した。

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そこでは、パリ在住のポルトガル人が20人ほど集まって、静かに祖国のビールを飲み、祖国の伝統料理を食べながら試合を観ていた。

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試合終了の笛が鳴った瞬間、ポルトガル人たちは雄叫びをあげた。飛び跳ねて、抱き合って、キスの嵐。その輪のなかへ花売りのジャックが駆け込む。
「おめでとうポルトガル!」
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(試合終了の瞬間。さりげなく乱入してきた花売りのジャックにご注目)
ついにバラは売れた。花売りのジャックの長い長い夜が終わった。

決戦から一夜あけ、ジャックが売ったバラのうち5本が、なぜか日本人が滞在する下町のアパルトマンに置いてある。そういえば昨夜、ポルトガル人の溜まり場に、ヘンテコな日本人が紛れ込んでいたっけ。

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おめでとう、ポルトガル。
おめでとう、ジャック。

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