採取日：２０１６年６月１6日
採取地：マルセイユ／フランス
サッカーが盛んなことで知られるマルセイユは、壁画の街でもあった。移民街の路地には、至るところに色鮮やかな絵が描かれていた。カリブ海、北アフリカ、インドなど、移民たちのバックグラウンドを描いた作品が目につく。

だが肝心のサッカー壁画には、いつまで経っても巡り合えなかった。移民街の路地をくまなく歩き、さらに地元の強豪オリンピック・マルセイユの本拠地ヴェロドロームに足を伸ばしたが、サッカーの匂いが漂ってこない。歩き疲れて無言になった壁画部に、にわか雨が追い打ちをかける。

雨宿りしようとキオスクの軒先に駆け寄った壁画部は、次の瞬間、声を上げた。向かいの店のシャッターに、地元の英雄ジダンが描かれていたからだ。しかも、その隣にはマラドーナと思しき肖像も描かれているではないか。

貧困から這い上がり、天下を獲った英雄のツーショット。壁画部の部長は舞い上がった。危険を承知で、過去にふたりの故郷に潜入取材を敢行したこともあるほど、ジダンとマラドーナが好きだからだ。

「きっと、この店の主人とは話が合うはずだ」。部長は勢い込んで店をたずねたが、残念ながらだれもいなかった。それはそうだ。店が閉まっていたから、シャッター壁画を見つけることができたのだ。